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人的資本経営とは?企業価値を高める人材戦略の基本と実践ステップ【2026年版】

公開日: 2026/3/30

人的資本経営とは?

人的資本経営とは、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値の向上を目指す経営アプローチです。

経済産業省は2020年に「人材版伊藤レポート」、2022年に「人材版伊藤レポート2.0」を公表し、経営戦略と人材戦略を連動させることの重要性を提言しました。これを契機に、日本企業の間で人的資本経営への関心が急速に高まっています。

従来の人事管理が「人件費をいかに効率化するか」に重点を置いていたのに対し、人的資本経営では「人材への投資がどのように企業価値を高めるか」という視点で人材戦略を設計します。

なぜ今、人的資本経営が求められるのか?

1. 情報開示の義務化

2023年3月期の有価証券報告書から、人的資本に関する情報開示が義務化されました。さらに2026年3月期からは、「従業員の状況」欄において企業戦略と関連付けた人材戦略や、従業員給与等の決定方針についての開示が求められる方針を金融庁が示しています。

上場企業にとって人的資本の開示は「対応すべき規制」から「競争優位を示す戦略的ツール」へと変化しつつあります。

2. 人材獲得競争の激化

少子高齢化による労働人口の減少、AI・DX人材の需要急増により、優秀な人材の獲得競争は年々激しさを増しています。人的資本経営に積極的に取り組む企業は、求職者から「人材を大切にする企業」として評価され、採用競争力の向上が期待できます。

3. 投資家からの要請

ESG投資の拡大に伴い、投資家は財務情報だけでなく、人材への投資状況や多様性の推進状況といった非財務情報にも注目しています。人的資本の充実は、企業の持続的な成長力を測る指標として重要視されています。

ISO30414 — 人的資本開示の国際ガイドライン

ISO30414は、2018年に国際標準化機構(ISO)が発表した人的資本に関する情報開示の国際ガイドラインです。企業の規模や業種を問わず適用可能で、定性・定量の両面から人的資本を体系的に可視化するための枠組みを提供しています。

ISO30414が定める11の領域

領域主な指標例
コンプライアンスと倫理苦情件数、懲戒処分件数
コスト総人件費、採用コスト、離職コスト
多様性年齢・性別・障害の多様性比率
リーダーシップ管理職の信頼度、リーダーシップ開発
組織文化従業員エンゲージメント、満足度
組織の健康・安全・福祉労災発生率、欠勤率
生産性従業員1人あたり売上高、人的資本ROI
採用・異動・離職採用充足率、離職率、内部異動率
スキルと能力研修費用、研修参加率
後継者計画後継者カバー率、後継者準備率
労働力の利用可能性従業員数、FTE(フルタイム換算人数)

自社の人的資本の状態を客観的に把握するための出発点として、ISO30414の枠組みを活用することが推奨されています。

人的資本経営の実践ステップ

ステップ1:経営戦略と人材戦略の連動

最初に取り組むべきは、自社の経営戦略・事業戦略を明確にし、それを実現するために「どのような人材が」「どれだけ」「いつまでに」必要かを定義することです。人材版伊藤レポート2.0では、この「経営戦略と人材戦略の連動」を人的資本経営の出発点と位置づけています。

ステップ2:現状の可視化

ISO30414等のフレームワークを活用して、現在の人材ポートフォリオを定量的に可視化します。スキルマップ、エンゲージメントサーベイ、離職率分析などを実施し、経営戦略とのギャップを明らかにします。

ステップ3:重点施策の実行

ギャップを埋めるための具体的な施策を設計・実行します。代表的な施策には以下があります。

  • リスキリング・人材育成:AI・DX人材の育成、管理職のリーダーシップ開発
  • ダイバーシティ&インクルージョン:女性管理職比率の向上、多様な働き方の推進
  • エンゲージメント向上:1on1の導入、キャリア開発支援、報酬制度の見直し
  • 採用戦略の刷新:ジョブ型雇用の導入、副業人材の活用

ステップ4:開示と対話

取り組みの進捗と成果を、投資家・ステークホルダーに向けて開示します。有価証券報告書、統合報告書、人的資本レポート等を通じて、数値データと取り組みの「ストーリー」を組み合わせた開示が効果的です。

ステップ5:PDCAサイクルの確立

人的資本経営は一度の施策で完結するものではありません。定期的にKPIを測定し、施策の効果を検証し、改善を続けるPDCAサイクルを確立します。

AI時代の人的資本経営

2026年現在、AI技術の急速な進化は人的資本経営にも大きな影響を与えています。

  • リスキリングの加速:生成AIやAIエージェントの登場により、従来の業務の一部がAIに置き換わりつつあります。従業員のスキルセットをAI時代に対応させるリスキリング投資が急務となっています
  • AI人材の争奪戦:AIエンジニア、データサイエンティスト、プロンプトエンジニアなど、AI関連人材の需要は供給を大きく上回っています。採用競争力の強化が人的資本経営の重要テーマです
  • 人事データのAI活用:離職予測、エンゲージメント分析、最適配置のシミュレーションなど、人事領域でもAI活用が進んでいます
  • AIと人間の協働設計:業務のうち「AIに任せる部分」と「人間が担う部分」を戦略的に設計し、人材の価値を最大化することが求められています

よくある質問(FAQ)

Q. 人的資本経営は大企業だけのものですか?

いいえ。上場企業には情報開示義務がありますが、人的資本経営の考え方自体はあらゆる企業規模に適用できます。むしろ中小企業こそ、限られた人材の力を最大限に引き出す「人的資本経営」の発想が重要です。採用力の強化やエンゲージメント向上は、規模に関係なく取り組めるテーマです。

Q. 人的資本経営で最初に取り組むべきことは?

まずは「経営戦略と人材戦略のギャップ」を可視化することです。自社の事業計画を実現するために必要な人材像を定義し、現在の人材ポートフォリオとのギャップを明らかにしましょう。そのうえで、ギャップを埋めるための優先施策(採用、育成、配置転換等)を特定します。

Q. ISO30414の認証は取得すべきですか?

ISO30414は認証規格ではなくガイドラインであり、「認証取得」という概念はありません。ただし、ISO30414に沿ったレポートの発行やアセスメントを行うことは、ステークホルダーへの信頼性向上につながります。2026年3月時点で、日本国内でISO30414に基づく人的資本レポートを公表する企業は増加傾向にあります。

まとめ

人的資本経営は、人材を「資本」と捉えて企業価値の向上を目指す経営アプローチです。2023年の情報開示義務化に続き、2026年にはさらに詳細な開示が求められるなど、制度面からも取り組みの加速が求められています。

経営戦略と人材戦略の連動、ISO30414を活用した現状の可視化、リスキリング投資の加速が実践のポイントです。特にAI時代においては、AIと人間の協働を前提とした人材戦略の再設計が、持続的な競争優位の源泉となります。


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