カーボンアカウンティングとは?
カーボンアカウンティング(Carbon Accounting:炭素会計)とは、企業活動に伴う温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)の排出量を体系的に測定・記録・報告するプロセスです。GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)が国際標準として広く採用されており、排出量をScope 1(直接排出)、Scope 2(エネルギー起源の間接排出)、Scope 3(サプライチェーン全体のその他の間接排出)の3つに分類します。
カーボンニュートラル・ネットゼロ目標を掲げる企業が急増する中、正確な排出量の把握は全ての脱炭素施策の出発点です。「測定できないものは管理できない」という原則が、カーボンアカウンティングの重要性を象徴しています。
Scope 1/2/3の定義
| 分類 | 定義 | 具体例 | 難易度 |
|---|---|---|---|
| Scope 1 | 自社の直接排出 | 自社工場の燃焼、社有車の燃料 | 低 |
| Scope 2 | エネルギー利用による間接排出 | 購入電力、蒸気、冷暖房 | 低〜中 |
| Scope 3 | サプライチェーン全体のその他の間接排出 | 原材料調達、輸送、出張、製品使用、廃棄 | 高 |
Scope 3は企業の総排出量の70〜90%を占めるとされていますが、サプライチェーン全体のデータ収集が困難なため、最大の課題です。
カーボンアカウンティング市場の急成長
Mordor Intelligence社の調査によると、カーボンアカウンティング市場は2025年の235.3億米ドルから2026年には298.2億米ドルに成長し、2031年には975.8億米ドルに拡大する見通しです(CAGR 26.78%)(出典:Mordor Intelligence「Carbon Accounting Market」2025年版)。
MarkNtel Advisors社の調査では、カーボンアカウンティングソフトウェア市場は2025年の193.4億米ドルから2032年には960.6億米ドルに成長し、CAGR 25.73%で拡大する見込みです。大企業が2025年の市場シェアの約82%を占めています(出典:MarkNtel Advisors「Carbon Accounting Software Market」2026年)。
市場成長の背景
- 規制の義務化:EU CSRD、SEC気候変動開示ルール、カリフォルニアSB 253/261等で排出量開示が法的義務に
- 投資家の要求:ESG投資家がカーボンデータの開示を投資判断の前提条件に
- サプライチェーン要求:大企業がサプライヤーに排出量データの提供を要求
- Scope 3の複雑さ:複雑なScope 3算定にAI/ソフトウェアの支援が不可欠
2026年の規制動向
| 規制 | 地域 | 要件 | 対象 |
|---|---|---|---|
| EU CSRD | EU | Scope 1/2/3排出量の開示(監査付き) | EU大企業・上場企業 |
| SEC Climate Disclosure | 米国 | 年間売上10億ドル超はScope 1/2開示(2026年〜)、Scope 3(2027年〜) | 米国上場企業 |
| カリフォルニアSB 253 | 米国CA州 | 年間売上10億ドル超はScope 1/2/3開示 | CA州で事業する大企業 |
| ISSB S2 | グローバル | TCFD対応の気候関連開示 | ISSB採用国の上場企業 |
| SSBJ基準 | 日本 | ISSBベースの日本版基準(策定中) | プライム市場上場企業(予定) |
GHG排出量の算定方法
Scope 1(直接排出)の算定
自社が直接管理する排出源からの排出量を算定します。燃料使用量×排出係数で算出するのが基本的なアプローチです。
Scope 2(エネルギー間接排出)の算定
購入した電力・熱・蒸気に伴う排出量を算定します。マーケットベース(電力契約に基づく排出係数)とロケーションベース(地域の平均排出係数)の2つの手法があります。
Scope 3(サプライチェーン排出)の算定
GHGプロトコルで15のカテゴリが定義されており、全カテゴリの網羅が理想ですが、まず重要度の高いカテゴリから段階的に取り組むのが現実的です。
| カテゴリ | 内容 | 一般的な重要度 |
|---|---|---|
| Cat.1 購入した製品・サービス | 原材料・部品の調達に伴う排出 | ◎(多くの企業で最大) |
| Cat.4 輸送・配送(上流) | 原材料等の輸送 | ○ |
| Cat.6 出張 | 従業員の出張に伴う排出 | △ |
| Cat.7 従業員の通勤 | 通勤に伴う排出 | △ |
| Cat.11 販売した製品の使用 | 顧客が製品を使用する際の排出 | ○(製造業で重要) |
カーボンアカウンティングソフトウェア
主要プラットフォーム比較
| ツール | 特徴 | 適したケース |
|---|---|---|
| Persefoni | Forresterリーダー評価、GHGプロトコル完全準拠、AI搭載のScope 3算定、8,000+組織が利用 | 大企業、金融機関、グローバル展開 |
| Sweep | EU CSRD対応、サプライヤーエンゲージメント機能 | EU規制対応が必要な企業 |
| IBM Envizi | IBM Cloud統合、AIベースのデータ管理 | IBM環境の大企業 |
| Watershed | 監査対応のデータ品質、削減シナリオ分析 | 米国上場企業、SEC開示対応 |
| zeroboard | 日本市場に特化、日本語対応、国内サプライチェーン | 日本企業、中堅企業 |
AI活用による排出量算定の高度化
- Scope 3の自動推計:AIがサプライヤーの業種・規模・所在地データから排出量を自動推計(サプライヤー固有データがない場合のギャップ補完)
- 排出係数の自動選択:AIが最適な排出係数データベースを自動選択
- 異常検知:報告データの異常値をAIが自動検出し、データ品質を確保
- 削減シナリオ分析:AIが複数の削減施策のシミュレーションを実行し、最適な削減パスを提案
カーボンアカウンティング導入の実践ステップ
ステップ1:算定範囲と目標の設定(1〜2ヶ月)
- 組織境界の定義(連結ベース or 管理支配基準)
- 算定対象のScopeとカテゴリの決定
- 基準年の設定
- 削減目標の策定(SBTi等の科学的根拠に基づく目標推奨)
ステップ2:データ収集と算定(2〜3ヶ月)
- 活動量データの収集(燃料使用量、電力使用量、サプライヤーデータ等)
- 排出係数の選定
- カーボンアカウンティングソフトウェアの導入
- Scope 1/2の算定→Scope 3の段階的な算定
ステップ3:レポーティングと削減計画(1〜2ヶ月)
- GHGプロトコル準拠の排出量レポート作成
- 第三者検証(必要に応じて)
- 削減ロードマップの策定
- ESGレポート・サステナビリティレポートへの統合
ステップ4:削減施策の実行とモニタリング(継続的)
- 省エネ施策の実行(再エネ調達、エネルギー効率改善)
- サプライチェーン排出の削減(サプライヤーエンゲージメント)
- 排出量の定期モニタリング
- カーボンクレジットの活用(残余排出量のオフセット)
よくある質問(FAQ)
Q. Scope 3の算定は全カテゴリ必須ですか?
GHGプロトコルでは全15カテゴリの算定を推奨していますが、初年度から全てを精緻に算定する必要はありません。まず重要度の高いカテゴリ(購入した製品・サービス、輸送・配送等)から着手し、業界平均の排出係数を使った推計から始め、年度を重ねるごとにサプライヤー固有データに置き換えて精度を向上させるアプローチが現実的です。
Q. カーボンアカウンティングの導入コストはどの程度ですか?
カーボンアカウンティングソフトウェアの利用料は年間数百万〜数千万円が一般的です。Scope 1/2の算定は比較的シンプルですが、Scope 3の算定はサプライチェーンデータの収集に工数がかかるため、初年度はコンサルティング費用を含めて数百万〜数千万円の投資が必要になるケースが多いです。2年目以降はデータ収集の仕組みが整い、運用コストは大幅に低減します。
Q. 日本企業にもカーボンアカウンティングは必要ですか?
はい、日本でもSSBJ(サステナビリティ基準委員会)がISSBベースの日本版基準を策定中であり、プライム市場上場企業への適用が見込まれています。また、グローバルなサプライチェーンにおいて、欧米の取引先からScope 3データの提供を求められるケースが増加しています。東証プライム市場のコーポレートガバナンス・コードでもTCFD対応の気候変動開示が求められており、カーボンアカウンティングは上場企業にとって事実上の必須対応です。
まとめ:カーボンアカウンティングは「環境活動」ではなく「経営基盤」
カーボンアカウンティング市場はCAGR 26.78%で急成長し、大企業が市場の82%を占めています。SEC、CSRD、ISSB等の規制義務化により、排出量の正確な把握と開示は企業の法的義務となりつつあります。カーボンアカウンティングはCSR部門の活動ではなく、財務報告と同等の精度と信頼性が求められる「経営基盤」です。
renueでは、AIを活用したデータ収集の自動化やESG対応の効率化を支援しています。カーボンアカウンティングの導入やサステナビリティ戦略について、まずはお気軽にご相談ください。
