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電力会社の運転日誌・点検記録をAIで自動化する方法|センサーデータ+作業者メモ→LLMで構造化ドキュメントを生成
発電所の運転日誌・設備点検記録の作成は、24時間体制の電力供給を支える日常の基幹業務です。センサーの計器値読取、巡視結果の記録、異常発生時の対応記録——この反復的かつ重要なドキュメンテーション業務をAI・LLMで自動化する動きが加速しています。国家能源集団は2025年にグローバル初の千億パラメータ級発電業界大規模言語モデル「擎源」を発表し、安全環保から設備検修までの全チェーン智能化を実現しました。
業務の詳細フロー(現状の手作業)
ステップ1:運転データの記録
中央制御室で監視する発電設備の運転パラメータ(出力、圧力、温度、回転数等)を定時(1時間ごと等)に記録します。DCS(分散制御システム)の画面から読み取った数値を運転日誌に転記します。
ステップ2:巡視・点検の実施・記録
運転員が発電設備を巡視し、異音・異臭・振動・漏洩等の有無を五感で確認します。計器の指示値を読み取り、点検記録用紙またはタブレットに記入します。異常を発見した場合はその内容も記録します。
ステップ3:異常・トラブルの記録
設備の異常やトラブルが発生した場合、発生時刻、状況、原因推定、対応内容、復旧時刻を詳細に記録します。事後のトラブル分析と再発防止策の策定に使用されます。
ステップ4:引き継ぎ記録の作成
交代勤務の引き継ぎ時に、当直中の運転状況、実施した操作、注意事項、継続監視項目をまとめた引き継ぎ記録を作成します。次の当直への正確な情報伝達が安全運転の基盤です。
ステップ5:月次・年次報告書への集約
日々の運転日誌・点検記録を月次・年次の設備管理報告書に集約します。設備の稼働率、異常発生件数、保全実績等のKPIを算出し、経営層・規制当局に報告します。
課題・ペインポイント
- 手作業の転記負荷:DCSの数値をExcelや紙の日誌に転記する作業が運転員の大きな負担
- 記録の品質ばらつき:記録の詳細度・正確性が運転員個人のスキルと几帳面さに依存
- 紙ベースの非効率:紙の点検記録用紙が残る現場では、データの検索・集計・分析が困難
- 引き継ぎの情報漏れ:口頭での引き継ぎが中心の場合、重要な注意事項が次の当直に伝わらないリスク
- ナレッジの蓄積不足:過去のトラブル対応記録が体系的に蓄積されておらず、類似トラブルへの対応に活かされない
AI化のアプローチ(IoT+LLMによる実装イメージ)
入力データの設計
- DCS/SCADAデータ:発電設備の運転パラメータ(自動取得、リアルタイム)
- IoTセンサーデータ:振動、温度、音響、油質等のセンサー計測値
- 巡視記録:運転員の巡視メモ(音声入力、写真、テキスト入力)
- 気象データ:外気温、風速、降水量(発電量に影響)
- 過去の運転日誌:同じ設備の過去の日誌・トラブル記録(RAGで参照)
処理パイプライン
- 運転データの自動取得・記録:DCS/SCADAシステムからAPIで運転パラメータを自動取得し、定時の記録データとして自動格納。手作業の転記を完全に排除
- 巡視記録の自動構造化:運転員が音声メモや写真で記録した巡視結果をLLMが自動構造化。「3号ボイラー北側配管から微小な蒸気漏れあり」等の自然言語メモを、設備名・異常種別・程度・位置の構造化データに変換(出典:国家能源局 "国家能源集団が発電行業大模型「擎源」を発表")
- 運転日誌の自動生成:自動取得した運転データ+構造化された巡視記録+気象データを統合し、LLMが所定のフォーマットで運転日誌を自動生成。異常値のハイライト表示も自動付与
- 引き継ぎ要約の自動生成:当直中の運転状況をLLMが自動要約し、「注意すべき設備」「継続監視項目」「実施した操作」を構造化した引き継ぎ記録を自動生成(出典:OxMaint "Power Plant Maintenance Trends 2026")
- トラブル記録の自動分析:異常発生時の記録から、LLMが過去の類似トラブルをRAGで検索し、想定される原因と推奨対応策を自動提示
人間が判断すべきポイント
- 異常への対応判断:検出された異常に対して「即座に停止か、監視継続か」の運転判断は当直長が行う
- 安全に関わる判断:設備の安全停止、緊急対応、規制当局への報告判断は人間の責任領域
- 記録の最終確認:AI生成の運転日誌の正確性確認・承認は当直長が行う
- 保全計画への反映:日誌・点検記録から保全計画を策定する総合判断は設備管理者が行う
他業種の類似事例
- 建設業の施工日報:写真+音声メモからLLMが構造化日報を自動生成(本シリーズ参照)
- 製造業の品質検査記録:検査データから品質レポートを自動生成(本シリ��ズ参照)
- 医療の看護記録:患者バイタル+看護メモから構造化記録を生成
導入ステップと注意点
ステップ1:DCS/SCADAデータ連携の整備(4〜6週間)
既存のDCS/SCADAシステムからAPIまたはOPC-UA経由でデータを自動取得する連携基盤を構築します。取得データの正確性・リアルタイム性を検証します。
ステッ���2:日誌生成パイプラインの構築(3〜5週間)
運転データ+巡視メモ入力→構造化→日誌自動生成→引き継ぎ要約生成のパイプラインを構築します。自法人の日誌フォーマットをプロンプトに組み込みます(出典:知乎 "電力大模型23個案例")。
ステップ3:パイロット運用(4〜8週間)
特定の発電ユニットでAI日誌と手作業日誌の品質・作成時間・記録漏れ率を比較します。運転員の業務負荷軽減効果も測定しま���。
注意点
- 法定記録との整合:電気事業法に基づく法定記録(運転記録、保安日誌等)のAI生成が法的に許容されるかの確認が必要
- OTセキュリティ:DCS/SCADAへのAPI接続はOT(運用技術)セキュリティの観点から慎重な設計が必要。制御系ネットワークへの影響を回避する設計
- 記録の改ざん防止:AI生成の記録が事後に改ざんされないよう、タイムスタンプ+電子署名の仕組みを組み込むこと
Renue視点:専用ツールではなく汎用LLMで実現する理由
運転日誌・点検記録の自動化の本質は「センサーデータと運転員の観察を統合し→構造化されたドキュメントにまとめる」という言語処理です。NTTドコモの「tsuzumi 2」電力業務特化LLMのような専用モデルも開発されていますが、汎用LLMに自法人の日誌フォーマット+過去の日誌パターンをRAGで参照させれば、現場固有の記述スタイルに合致した日誌生成が実現可能です。「ベテラン運転員がどのように運転状況を要約し、引き継ぎをどのように構成しているか」を言語化してプロンプトに落とし込むことが鍵です。
まとめ
電力会社の運転日誌・点検記録は、DCSデータ自動取得→巡視記録自動構造化→運転日誌自動生成→引き継ぎ要約→トラブル分析のパイプラインでAI・LLMによる大幅な自動化が可能です。国家能源集団の「擎源」など発電業界専用の大規模言語モデルも登場しています。ただし、異常への対応判断、安全に関わる判断、記録の最終確認、保全計画への反映は完全に運転員と設備管理者の専門判断の領域です。
