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提案が刺さらないITコンサルタントに足りない「顧客理解の構造」
「請求書の受領業務がありますよね?自動化したいですよね?このツールを入れましょう」——このような提案は、ほぼ確実に刺さりません。なぜなら、「いや、基幹システムで経理を一元管理してるから、請求書だけ切り出すのは無理」と返されるからです。
提案が刺さらない根本原因は顧客のビジネス全体を理解していないことです。部署が何をしているのか、どう変えたいのか、その全体像の中で何が課題なのかを把握しないまま、ソリューションだけを提示しても、顧客の現実とかみ合いません。
本記事では、IT コンサルタントが顧客の経営戦略を構造的に理解し、提案精度を飛躍的に高めるためのフレームワークを解説します。
顧客理解の4ステップフレームワーク
顧客のビジネスを構造的に理解するための手順は以下の4ステップです。
ステップ1:体制図を書き出す
まず、自分たちが関わっているプロジェクトの体制図を書きます。ここで重要なのは、自分のカウンターパートだけでなく、その上の人まで含めることです。
多くのコンサルタントは、直接やり取りしている担当者のことしか見ていません。しかし、その担当者にも上司がおり、上司にも上司がいます。最終的には「株主」や「取締役会」に行き着きます。
ステップ2:一番上の人の意向を想像する
体制図で一番お客様の上にいる人——部長、本部長、役員——の意向を想像して書き出します。「この人は何を達成したいのか?」「何に困っているのか?」を考えます。
ステップ3:IR資料で戦略を読み解く
お客様の戦略や背景は、大きいものは必ずホームページやIR資料に存在しています。中期経営計画、有価証券報告書、決算説明資料などから、当該部署の戦略を読み解きます。
経営戦略を知らずしてプロジェクト管理はできません。IR資料で経営目標を抑え、発足時からの資料を全て見ることが、上位者の目線を把握する最も確実な方法です。
ステップ4:戦略と施策のギャップを埋める
読み解いた戦略と、普段の施策との間にあるギャップを特定します。例えば、顧客部門の戦略が「マルチブランド展開」「グループシナジー」「高品質ネットワーク」だとすると、自分たちが担当しているAI案件がこの戦略のどこに貢献するのかが見えてきます。
さらに重要なのは、自分たちがやっているAI案件以外の施策も見えるようになることです。これにより、追加提案や横展開の機会を発見できます。
正しいソリューション提案の5構成
顧客理解に基づいた提案は、以下の5つの構成で行います。
| 順序 | 構成要素 | 確認すべきこと |
|---|---|---|
| 1 | 背景となる領域 | お客様のビジネスや部署がやっていることが合っているか |
| 2 | 目的 | それをどう変えたいのか |
| 3 | 現状 | 変えたい対象の現状を正確に把握(どうやって調べたかも添える) |
| 4 | プラン | その上で変えるプランを提示 |
| 5 | 実現妥当性 | 技術やスケジュールで実現可能であることを示す |
ダメな提案:「請求書の受領業務がありますよね → 自動化したいですよね → このツールを入れましょう」(構成1-2をスキップしてプランから入っている)
良い提案:「経理部では請求書の受取と発行、入出金管理、税理士連携、会計処理を行っていますよね(構成1)→ このうち請求書受取業務の効率化が課題とのことですが(構成2)→ 現状は月間○件を手作業で処理されており(構成3)→ この部分をAI-OCRで自動化することで処理時間を60%削減できると考えます(構成4)→ 技術的には既存の基幹システムとAPI連携可能です(構成5)」
毎回のコミュニケーションで整理すべき8項目
顧客とのコミュニケーション(定例会議、メール、チャット)では、毎回以下の8項目を整理します。
- お客様のビジネスは何が主要因で成長するものか
- その上でどんな課題があり、本プロジェクトが進行しているか
- その中で我々はどんな役割を期待されているか
- その役割遂行の中で何が今課題となっているか
- その課題に対してどのようなアプローチを仮説として持ってきたか
- 課題解決に必要となる相談事項・意思決定して欲しい事項
- 課題解決に向けたアクション・事実のご報告
- 課題解決に向けて障壁になりうるリスクのご共有
ある優秀なPMは、毎回同じスライドで「我々は共通してXXXという目的の達成に向けて本プロジェクトを進めています」と宣言していました。これにより、議論が脱線しても常に本来の目的に立ち返ることができます。
情報開示の判断フレームワーク
顧客とのコミュニケーションで最も難しいのは「何を言うか」「何を言わないか」の判断です。
基本原則:全て開示する
「こいつは本当に隠し事しない」という信頼は大きい。基本的に全て開示する方針で臨みます。
開示すべき情報
- 進捗(完了/未完了、次のマイルストーン)
- リスク(懸念点・影響・対策案)
- スコープ/要件/前提の変更
- 判断が必要な事項(選択肢・推奨案)
- お客様への依頼(確認事項・期限・必要資料)
- 遅延/障害の事実(原因の要約+リカバリ)
伏せるべき情報(受託側の内部事情)
- 社内稟議/手続きが遅い等の内部都合
- リソース不足・担当者都合
- 部門間調整/社内政治の話
- 採算/利益率など受託側の事情
- 顧客価値に無関係な詳細なミス報告
判断フロー
Q1: 顧客の意思決定に影響するか? → Yes → 開示
Q2: 顧客のビジネスに関係するか? → Yes → 開示
それ以外 → 受託側の内部事情として伏せる
正確性と網羅性の担保
正確性:全ての情報にソースをつける
すべての情報にソースをつけることを徹底します。1つたりとも「私がそう思うから」にしない。
- 出典の明記:数字・主張は一次情報/公式資料に紐づける(URL/発行年/ページまで記載)
- 数値の検証:計算根拠を残し、単位・母数・期間を揃える
- 用語統一:固有名詞・専門用語は用語集で統一。表記ブレは絶対に許容しない
網羅性:確実な基準で漏れを防ぐ
「プロジェクト参画者全員」のような確実性の高い基準で網羅性を確保します。
| 確認対象 | 分解方法 | 漏れチェック |
|---|---|---|
| 参画者全員 | 役割×工程(企画/設計/実装/テスト) | 関係者レビュー+抜けリスト化 |
| 対象業務の全工程 | 入力→処理→出力→例外→監査 | 業務フロー図で例外処理を確認 |
| 利用者の全類型 | 社内/社外×頻度×権限 | ペルソナ×シナリオで抜け洗い |
| 論点の全カテゴリ | 品質/コスト/期限/リスク/体験/運用 | カテゴリ別に「未検討」をゼロに |
他社事例の正しい使い方
提案やディスカッションで他社事例を引くのは要注意です。以下の2つ以外は、「学生ベンチャーみたいな見え方」になるリスクがあります。
使ってよい事例
- 「自社で実績があります」:自分たちが実際にやった事例
- 「自社でもう手元に作ってあります」:デモ可能な状態の実装
使ってはいけない事例
- 「○○社がやっています」(自分たちの実力を示していない)
- 「海外の事例では…」(日本の商慣習と異なる可能性)
唯一の例外は、Googleのように誰もが認める先進的な事例の場合です。それ以外は、自社実績かデモ可能な実装で示すのが鉄則です。
定例会議のプロアクティブ設計
プロジェクト開始から終了までの定例会議は、すべて事前にアジェンダを予測できます。実際の決定事項はともかく、「何をこのタイミングで決めるか」は事前にほぼ決まっているからです。
12回定例のアジェンダ予測例
| 回 | 主要アジェンダ |
|---|---|
| 1回目 | Kickoff:目的・スコープ確認・ゴール定義・スケジュール・役割整理 |
| 2-3回目 | 要件定義:データ・候補選定・システム要件初期検討 |
| 4-6回目 | 設計・開発:進捗確認・課題解決・中間レビュー |
| 7-9回目 | テスト・検証:結果報告・改善策・フィードバック反映 |
| 10-11回目 | まとめ:成果サマリー・次フェーズ方針・最終報告準備 |
| 12回目 | 最終報告:リハーサル・質疑応答想定・資料修正 |
この予測を初回の時点で作成しておくことで、「今どこにいるか」「次に何が来るか」が常に見えている状態を維持できます。
AIを活用した顧客理解の加速
2026年現在、顧客理解のプロセスはAIで大幅に効率化できます。
- IR資料の分析:顧客のIR資料をAIに読み込ませ、経営戦略・重点施策・リスクファクターを構造化抽出
- 議事録からの要件整理:会議録画から直接、要件定義書を自動生成(中間成果物スキップ)
- 体制図の自動生成:プロジェクト関連のメール・チャットからAIが体制図を推定
- 定例アジェンダの予測:過去のプロジェクト実績からAIが各回のアジェンダを事前生成
ただし、「何を開示し何を伏せるか」の判断や、「この提案が顧客の戦略に整合するか」の最終判断は、人間のビジネス感覚が不可欠です。
まとめ:顧客理解チェックリスト
| フェーズ | チェック項目 | 完了基準 |
|---|---|---|
| 顧客理解 | 体制図を書き出したか | カウンターパートの上2階層まで含む |
| 顧客理解 | IR資料で戦略を読み解いたか | 当該部署の戦略を3つ以上特定 |
| 顧客理解 | 戦略と施策のギャップを特定したか | 自案件の位置づけが説明可能 |
| 提案 | 5構成(背景→目的→現状→プラン→妥当性)で構成したか | 背景を飛ばしてプランから入っていない |
| コミュニケーション | 8項目を毎回整理しているか | リスクと相談事項が含まれている |
| 情報開示 | 開示/伏せの判断基準が明確か | 顧客の意思決定に影響する情報は全て開示 |
| 品質 | 全ての情報にソースがあるか | 「私がそう思うから」がゼロ |
| 定例 | 全回のアジェンダを事前予測したか | 12回分のアジェンダ予測が存在する |
顧客理解は「才能」ではなく「フレームワーク」です。体制図→IR→戦略ギャップの3ステップで構造を把握し、5構成の提案で相手に伝える。この型を身につければ、提案が刺さる確率は格段に上がります。
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