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自治体のケースワーク記録をAIで効率化する方法|相談メモ→LLMで構造化記録+対応履歴管理を自動化
自治体の福祉部門において、ケースワーク記録(相談記録・面談記録)の作成は、住民の生活支援を支える基盤業務です。生活保護の相談、児童相談、高齢者支援、障がい者支援等の面談内容を正確に記録し、対応履歴を管理する——この時間のかかるドキュメンテーション業務をLLMで効率化するアプローチが始まっています。NTTデータ関西は2025年10月より、生成AIを活用した自治体向け「職員支援AIアプリ」の提供を開始し、面談記録から報告書案の自動生成を実現しました。
業務の詳細フロー(現状の手作業)
ステップ1:相談・面談の実施
住民(相談者)との面談を実施し、相談内容(生活状況、困りごと、希望する支援)を聞き取ります。家庭訪問による面談も多く、1件あたり30分〜1時間以上を要します。
ステップ2:面談内容の記録
面談中のメモまたは面談後の記憶に基づき、相談記録を作成します。相談日時、相談者情報、相談内容、ケースワーカーの所見、今後の対応方針を所定のフォーマットで記入します。
ステップ3:対応方針の検討・記録
相談内容に基づき、適用可能な制度・サービス(生活保護、介護保険、障害福祉サービス等)を検討し、対応方針を決定します。関係機関(病院、学校、NPO等)との連携方針も記録します。
ステップ4:対応履歴の更新
継続的に支援しているケースでは、面談のたびに対応履歴を更新します。「前回の面談からどう変化したか」「支援計画の進捗はどうか」を時系列で記録します。
ステップ5:統計・報告書の作成
相談件数、分類別(生活困窮、児童虐待、DV等)の集計、対応状況の統計を作成し、上司・議会・国への報告資料に反映します。
課題・ペインポイント
- 記録作成の時間負荷:面談後の記録作成に面談と同等以上の時間を要し、ケースワーカーの業務時間の大半が記録に費やされる
- 記録の品質ばらつき:記録の詳細度・正確性がケースワーカー個人のスキルに依存し、重要な情報の記載漏れが発生しうる
- 対応履歴の検索困難:長期間にわたるケースでは過去の対応履歴が膨大になり、必要な情報の検索に時間がかかる
- ケースワーカーの人員不足:福祉職の人員不足が深刻化する中、記録業務の負荷軽減が急務
- 住民対応時間の圧迫:記録作成に追われ、住民との面談や支援に充てる時間が不足
AI化のアプローチ(LLMによる実装イメージ)
入力データの設計
- 面談メモ:ケースワーカーの手書きメモ、音声録音、タブレット入力
- 過去の相談記録:同一ケースの過去の面談記録・対応履歴
- 制度情報:生活保護、介護保険、障害福祉等の制度概要・適用条件
- 記録テンプレート:自治体の相談記録フォーマット
- 関係機関情報:連携先機関(病院、学校、NPO等)の一覧
処理パイプライン
- 面談内容の自動テキスト化:音声録音やメモからLLMが面談内容をテキスト化。音声認識と組み合わせることで、面談中のリアルタイム記録も可能(出典:NTTデータ関西 "職員支援AIアプリの提供開始")
- 相談記録の自動構造化:テキスト化された面談内容から、LLMが相談日時・相談者情報・相談内容・所見・対応方針を自動分類し、所定のフォーマットで構造化記録を生成
- 適用制度の自動提案:相談内容に基づき、LLMが適用可能な制度・サービスの候補を自動提案。制度の適用条件との照合も実施
- 対応履歴の自動要約:長期間のケースについて、LLMが過去の対応履歴を自動要約し、「これまでの経緯」「現在の状況」「今後の課題」を構造化して提示(出典:Appian "AI Use Cases Government Case Management")
- 統計・報告書の自動集計:蓄積された相談記録から、分類別の集計・トレンド分析をLLMが自動生成し、報告書のドラフトを出力
人間が判断すべきポイント
- 支援方針の決定:「この住民にどのような支援を提供するか」の判断はケースワーカーの専門的アセスメントに基づく
- リスク判断:児童虐待、DV、自殺リスク等の緊急性の高いケースの判断は人間の専門スキルが不可欠
- 住民との信頼関係:面談における傾聴・共感・信頼関係の構築は対人援助の核心
- 関係機関との連携:病院・学校・警察等との連携調整は対人コミュニケーションの領域
他業種の類似事例
- 医療の看護記録:患者バイタル+看護メモから構造化記録を自動生成
- 人材会社の面談記録:キャリア面談の記録から推薦状をLLMが自動生成(本シリーズ参照)
- 建設業の施工日報:現場メモ+写真から構造化日報を自動生成(本シリーズ参照)
導入ステップと注意点
ステップ1:記録フォーマットの標準化(2〜3週間)
相談記録のフォーマットを標準化し、構造化すべき項目(相談区分、対応方針、連携機関等)を定義します。
ステップ2:記録生成パイプラインの構築(3〜5週間)
面談メモ/音声入力→テキスト化→構造化記録生成→制度提案→対応履歴更新のパイプラインを構築します(出典:arxiv "Promises and Perils of LLMs for Public Services")。
ステップ3:パイロット運用(4〜8週間)
特定の福祉分野(生活保護相談等)でAI記録と手作業記録の品質・作成時間・記載漏れ率を比較します。
注意点
- 個人情報の厳格な管理:ケースワーク記録には住民の最も機密性の高い個人情報(健康状態、家族状況、収入等)が含まれるため、LLMへの入力時のセキュリティ管理は最重要
- LGWAN環境での運用:自治体の情報セキュリティポリシーに準拠し、閉域環境でのLLM運用が必須
- 記録の法的位置づけ:ケースワーク記録は行政処分(生活保護の決定等)の根拠となる公文書であり、AI生成記録の法的有効性の確認が必要
Renue視点:専用ツールではなく汎用LLMで実現する理由
ケースワーク記録の本質は「面談の内容を正確に記録し→適切な支援方針を記述し→対応履歴を管理する」という言語処理です。NTTデータ関西の職員支援AIアプリのような専用ツールも登場していますが、汎用LLMに自治体の記録フォーマット+制度情報をRAGで参照させれば、福祉分野ごとにカスタマイズされた記録生成パイプラインが構築可能です。「ベテランケースワーカーがどのように面談内容を要約し、どのような構成で記録を書いているか」を言語化してプロンプトに落とし込むことが鍵です。
まとめ
自治体のケースワーク記録は、面談テキスト化→構造化記録生成→適用制度提案→対応履歴自動要約→統計レポート生成のパイプラインでLLMによる大幅な効率化が可能です。NTTデータ関西の職員支援AIアプリなど、日本でも実装が進んでいます。ただし、支援方針の決定、リスク判断、住民との信頼関係構築、関係機関との連携は完全にケースワーカーの専門的アセスメントと対人援助スキルの領域です。
