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「保育士の平均年収は406万円台」と言われる(厚生労働省 令和6年賃金構造基本統計調査・職種第1表の月額給与×12+年間賞与等による年収換算値)。だがこの数字を見て「自分は平均より低い」「自分の保育園の処遇は妥当か」を判断しようとしても、平均値だけでは答えが出ない。保育士の年収を決定づけているのは、勤務する施設がこども家庭庁所管の「処遇改善等加算」をどう取得しているかである。同じ「私立認可保育園」でも、加算の取得状況で年収レンジが大きく変わる。
本記事は、保育士として「自分の処遇は制度通りか」「転職するなら何を確認するか」を判断したい人に向けて書く。こども家庭庁が令和7年度(2025年度)以降の処遇改善等加算を一本化した最新制度を踏まえながら、(a) 加算の構造、(b) 自分の施設の取得状況を確認する手順、(c) 転職時に何を聞くべきか、を整理する。
「406万円」が見えなくしているもの
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」職種第1表による保育士の年収換算値は406万円台です。この集計は企業規模10人以上・男女計の一般労働者を対象としており、公立・私立認可・認可外の全施設を一律に含む平均ではありません。最新値は同調査で確認してください。一方、施設形態ごとに見ると、(a) 公立保育園(地方公務員給与表ベース)、(b) 私立認可保育園(処遇改善等加算で底上げ)、(c) 認可外保育施設(加算対象外が多い)、で構造が大きく違う。
同じ「私立認可保育園」内でも、運営法人がどの加算区分をどこまで取得しているかで年収が変わる。こども家庭庁所管の旧加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲをすべて適用する園と、Ⅰだけしか取得していない園とでは、保育士1人あたりに反映される額が大きく違う。「平均406万円」を見ても、自分の園がそのどの位置にあるかは分からない。
令和7年度から一本化された処遇改善等加算の中身
2025年度(令和7年度)から、それまでの処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲが廃止され、新たに3区分に再編された。こども家庭庁「令和7年度以降の処遇改善等加算について」の公式資料に詳細が示されている。
区分①(基礎分):経験に応じた昇給の仕組みの整備や職場環境の改善に関する加算。キャリアパスの構築が必須要件で、施設としての基本処遇水準を底上げする。
区分②(賃金改善分):旧加算Ⅰ(賃金改善要件分)と旧加算Ⅲ(一律支給型)を統合した加算。賃金改善という観点で施設に支給される(こども家庭庁制度資料参照)。
区分③(質の向上分):旧加算Ⅱ(キャリアアップ研修修了者向け)に相当。副主任・専門リーダー等の役職や、キャリアアップ研修の修了状況に応じて加算される。
制度上、(a) 申請様式の統一、(b) 賃金改善計画書の提出原則廃止(誓約書で代替)、(c) 実績報告書の最大3枚への削減、など、施設側の事務負担は大幅に軽減された。これにより加算を取得する施設は増える方向にある(こども家庭庁公表資料参照)。
自分の施設の加算取得状況を確認する手順
保育士として自分の処遇が制度通りかを判断するには、勤務先の加算取得状況を把握する必要がある。確認手順は次の通り:
第1ステップ:給与明細で「処遇改善手当」「キャリアアップ手当」などの名目で支給されている項目を確認する。基本給とは別の項目として支給されているのが一般的である。
第2ステップ:勤務先の運営法人または施設長に、「区分①〜③のうちどれを取得しているか」を聞く。こども家庭庁の制度上、施設は加算取得状況を公的に申請しており、職員からの問い合わせに答える性格のものである。
第3ステップ:所属する都道府県・市区町村の保育課に問い合わせる。こども家庭庁と各自治体は施設別の加算取得状況を把握しており、地域の運用状況を確認できる。
第4ステップ:賃金改善計画書または誓約書の内容を確認する。施設は職員に対して賃金改善の方針を提示する義務があり、説明を求めることができる。
もし勤務先の加算取得状況が不透明、または取得している区分が少ないと判明した場合、それが自分の年収が「平均より低く感じる」原因の構造的部分である。本人の能力評価ではなく、施設の経営方針や事務処理状況に起因する。
転職を考える時に聞くべきこと
転職先の保育園を比較する時、求人票に書かれた「年収◯◯万円」だけでは判断材料が足りない。以下の項目を面接時に必ず確認する:
1. こども家庭庁の処遇改善等加算の区分①〜③をすべて取得しているか。取得していない区分がある場合、その理由は何か。
2. キャリアアップ研修(乳児保育・幼児教育・障害児保育・マネジメント等)の修了状況はどう評価されるか。区分③の対象となるかどうかは、本人の研修修了状況で変わる。
3. 賞与・昇給・住宅手当・通勤手当の支給ルールはどうなっているか。基本給と諸手当の比率で実額が大きく変わる。
4. 副主任・専門リーダー・職務分野別リーダーへの昇格パスは明確か。区分③の対象となる役職に到達できるかが、長期年収の上限を決める。
5. 残業・持ち帰り業務の実態はどうか。保育記録のICT化、シフト管理の運用、休憩時間の確保など、業務環境の実態を聞く。
これらを確認せずに「年収◯万円」だけで転職判断をすると、移籍後に処遇に納得できない事態が起こりやすい。こども家庭庁の制度設計上、加算の取得状況は施設によって異なります。転職時は、基本給・雇用形態・勤続年数・地域差とあわせて確認してください。
公立 vs 私立 vs 認可外の構造
同じ保育士資格でも、施設形態で年収構造が大きく違う。
公立保育園(地方公務員):自治体の給与表に従い、勤続年数ベースで安定的に上昇する。給与は各自治体の条例に基づく給料表で決まり、退職金・年金制度を含めた生涯収入は私立より高水準。一方、採用枠が限られているため競争率が高い。
私立認可保育園:こども家庭庁の処遇改善等加算で公立との差を縮める設計になっている。施設ごとに加算取得状況が違うため、年収レンジが幅広い。
認可外保育施設:処遇改善等加算の対象外になるケースが多い。こども家庭庁の認可外指針に従う形だが、認可施設と比べて処遇水準は低い傾向にある。一方、独自の運営方針(少人数保育・小規模・多文化対応等)で働きがいを優先する選択肢にもなる。
企業主導型保育・院内保育・ベビーシッター・小規模保育(A・B・C型):こども家庭庁所管の制度ごとに処遇改善の仕組みが違う。企業主導型保育はこども家庭庁の助成金体系で年収水準が決まる。
キャリアアップ研修と区分③の関係
処遇改善等加算 区分③(質の向上分)は、厚生労働省 子ども・子育て関連政策とこども家庭庁が連携して運用しているキャリアアップ研修の修了状況に応じて加算される仕組みである。研修分野は乳児保育、幼児教育、障害児保育、食育・アレルギー対応、保健衛生・安全対策、保護者支援・子育て支援、マネジメント、などに分かれている。
これらの研修を計画的に修了することで、区分②・③の対象となる役職(副主任・専門リーダー・職務分野別リーダー)に到達でき、年収を体系的に引き上げられる。逆に研修を受けず勤続年数だけで処遇改善が止まると、年収カーブが平坦になる構造になっている。
転職時には、応募先の施設が「研修受講の機会・費用負担・代替勤務の調整」をどう運用しているかも確認する必要がある。研修を受けたくても勤務シフトで参加できない、費用が自己負担、というケースでは、長期的な年収上昇のパスが閉ざされてしまう。
「保育士は安いから諦める」を脱出する選択肢
保育士の処遇が低いと感じる根本原因は、(a) 勤務する施設の加算取得状況が低い、(b) キャリアアップ研修の機会がない、(c) 役職昇格パスが不明確、のいずれか、または複数の組み合わせである場合が多い。これは本人の努力以前に、施設の経営方針と運用体制に起因する構造問題である。
解決の選択肢は3層に分かれる:
1層目(施設内で動かす):研修を計画的に修了し、副主任・専門リーダー等の役職昇格を狙う。施設長に区分②・③の取得拡大を働きかける。
2層目(施設を変える):処遇改善等加算をすべて取得している私立認可保育園、または公立保育園に転職する。施設選びで聞くべき項目は前述の5点。
3層目(働き方を変える):認定こども園・幼稚園・企業主導型保育・院内保育・行政の子育て支援部署・保育SaaSのプロダクト責任者・保育園経営コンサル・子育てメディア編集等、保育士資格を活かしながら異なる業務に転身する。
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