はじめに:「DX計画」という思考停止
日本企業の多くは、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む際、まず「中長期DX計画」を策定しようとします。経営企画部がプロジェクトを立ち上げ、戦略コンサルタントが入り、半年かけて3〜5年のロードマップを描く。数千万円のフィーを払い、美しいパワーポイントが完成する。
しかし、そのロードマップが完成した頃には、前提としていた技術が陳腐化している——そんな経験をした企業は少なくないはずです。
私たちrenueは、会社概要ページで明確に「中長期DX計画」をやらないこととして掲げています。これは単なるポジショントークではありません。AI時代の変化の速度を真正面から受け止めた結果、合理的にたどり着いた結論です。
なぜ中長期DX計画は機能しなくなったのか
計画のサイクルと技術進化のサイクルが合わない
従来のDX計画は、以下のようなサイクルで進みます。
計画策定に6〜12ヶ月。承認プロセスに3ヶ月。ベンダー選定に3〜6ヶ月。実装に12〜24ヶ月。つまり、構想から稼働まで最短でも2年、一般的には3年以上かかります。
一方、AI技術の進化サイクルはどうでしょうか。2022年11月にChatGPTが登場し、2023年3月にGPT-4が公開され、2024年にはマルチモーダルAI、AIエージェントが実用段階に入り、2025年にはAIがコードを書きAIを改良するサイクルが当たり前になりました。
半年〜1年で技術の前提が根本から変わる時代に、3年計画を立てることに意味があるのか。答えは明白です。
「計画を立てること」自体が目的化するリスク
中長期DX計画のもう一つの問題は、計画策定そのものが目的化しやすいことです。現状分析、あるべき姿の定義、ギャップ分析、ロードマップ策定——このプロセス自体に多大なリソースが投じられ、肝心の「実行」に回るエネルギーが残らない。
さらに、一度承認された計画は組織の中で「聖典」と化し、環境が変わっても軌道修正がしにくくなります。計画に従うことが正義になり、計画から外れた判断は「逸脱」として咎められる。これでは変化への対応力は失われる一方です。
AIが生む「自己加速するイノベーション」
中長期DX計画が特に危険になった背景には、ChatGPTの登場以降に始まったAIの自己加速サイクルがあります。
従来の技術進化は、人間がコードを書き、人間がテストし、人間が改良するという線形的なプロセスでした。しかし今は違います。AIがコードを書き、AIがテストを実行し、AIが改善案を提案する。このサイクルが回るたびに、AIはより強力なAIを生み出す基盤を作り出しています。
これは単なる進化の加速ではなく、指数関数的な変化です。1年後の技術水準を正確に予測することすら困難な状況で、3年先の技術前提に基づいた計画を立てることは、砂の上に城を建てるようなものです。
実際に、2023年に策定された多くのDX計画では「RPA導入による業務自動化」が中核に据えられていましたが、2024年にはLLMベースのAIエージェントがRPAの適用領域を大幅に超え、計画の前提そのものが崩壊しました。
では何をすべきか:「守り」と「即時実装」の二刀流
中長期DX計画が不要だからといって、すべての計画性を捨てろと言っているわけではありません。重要なのは、計画すべきものと即時実行すべきものを正しく分けることです。
「守り」は計画的に——最大リスクを押さえる
セキュリティ、コンプライアンス、データガバナンス、BCP(事業継続計画)——これらは計画的に取り組むべき領域です。なぜなら、失敗した場合のダウンサイドが致命的だからです。
renueもISMS認証を取得し、情報セキュリティの基盤を整えています。守りの領域では、最大リスクを特定し、それを確実に押さえる。ここに計画性は必要です。
「攻め」は即時に——期待値を最大化する
一方、DXの「手段」——どのツールを使うか、どのクラウドサービスを採用するか、どのAIモデルを活用するか——これらは即時判断・即時実装すべきです。なぜなら、この領域では「待つこと」自体がリスクだからです。
6ヶ月後にはもっと良いツールが出るかもしれない。しかし、6ヶ月間何もしないコストの方が、ツールを入れ替えるコストより遥かに高い。今この瞬間のベストを選び、より良いものが出たら乗り換える。この判断の速度こそが競争力です。
期待値で意思決定する
この考え方を定量的に表現すると「期待値の最大化」になります。
完璧な計画を立ててから動く場合:準備期間のコスト+計画が陳腐化するリスク+実行の遅延コスト。即時実装で動く場合:多少の手戻りコスト+早期に成果を得る利益+環境変化への適応力。
AI時代においては、後者の期待値が圧倒的に高い。一定のリスクを許容しつつ、素早く動いて学習し、修正し続ける方が、結果的に最も遠くまで行けるのです。
renueが「中長期DX計画」をやらない理由
renueがこの考え方を掲げるのは、自分たち自身がそう実践しているからです。
「まず自分たちで技術を実用し普及する」——これが私たちのミッションです。机上の空論でロードマップを描くのではなく、最新の技術を自社業務でまず使い倒す。効果を検証してから、お客様に届ける。
実際にrenueでは、社内の業務管理にAIエージェントを全面的に導入しています。PMO、採用分析、財務管理、部下マネジメント——すべてAIが日常業務を支えています。これらのツールは固定的な「システム」ではなく、技術の進化に合わせて常にアップデートされる「生き物」です。
また、renueはPM・エンジニア・コンサルタントという役割の壁を設けていません。少人数が全領域を横断するからこそ、「このツールが使えそうだ」と思った瞬間に試し、「これは違う」と思ったら翌日には切り替えられる。3年計画を経営会議で承認してもらう必要はありません。
保守契約も取りません。作って終わり、守って稼ぐモデルでは、お客様は古いシステムに縛られ続けます。顧客が自走できる状態をゴールに置くからこそ、常に最新の技術で最善の実装を提供できるのです。
日本企業へのメッセージ
経営企画部や戦略コンサルタントの存在意義を否定しているわけではありません。事業の方向性、ビジョン、市場における立ち位置——こうした大枠の戦略は今も重要です。
しかし、「DX」という手段レベルの意思決定に、大枠の戦略と同じ時間軸を適用するのは間違いです。戦略は3年で考えてもいい。しかしDXの手段は3日で決めるべきです。
今必要なのは、以下の思考の切り替えです。
「完璧な計画を立ててから動く」から「守りだけ押さえて、すぐ動く」へ。
セキュリティとコンプライアンスは妥協しない。しかしそれ以外は、今日使える最良のツールで、今日から実装を始める。半年後にもっと良いものが出たら、喜んで乗り換える。
この柔軟さと速度こそが、AI時代を生き抜く企業に求められる真の「DX」なのではないでしょうか。
まとめ
3年後の技術は誰にも読めません。半年で陳腐化する計画に時間をかけるより、今この瞬間のベストを実装し続ける。それが結果的に最も遠くまで行ける方法だと、私たちは考えています。
AIがAIを生み出すサイクルに入った今、DXの意思決定に求められるのは「計画の精緻さ」ではなく「判断と実行の速度」です。守りを固め、最大リスクを押さえた上で、一定のリスクを取って期待値を最大化する。この考え方に共感いただける方は、ぜひ一度お話しさせてください。

