LTV(顧客生涯価値)の意味と重要性。サブスクビジネスを成功させるための収益管理

公開日: 2025/4/20
Life Time Valueという単語をご存知だろうか。顧客生涯価値という単語が示す通り、1人の顧客が解約・離脱するまでに消費する金額を総和した概念だ。そもそもはブランドに対してファンがつき、そのファンが離れるまでの間に何円を消費するかというファン管理の指標として用いられていたが、近年のサブスクビジネス隆盛を受けて重要性が高まっている指標だ。本稿では、サブスクビジネスを運営する経営者に向けて、LTVの計算方法や意味を整理し、適切にKPIとして管理してビジネスを成功させるための手法を書き記したいと思う。

LTVとは
LTVは序論でも書いた通り、時間軸を顧客にフォーカスして売上高を管理するための指標である。単に購買を統計的に捉えて売上を予測する場合には、
広告imp数 × CTR × CVR × 平均客単価 ・・・式(A)
という数式が当てはまるが、1名の顧客が何度もリピートすることが重要なビジネスではこの図式が当てはまらないことが多いため考案された手法である。
現在、調べる限りでは少なくとも日本では2012年の言及が最古のようだ。SNSが登場し、消費者との繋がりが重視され始めた時期であり、これまでは漠然としたファンマーケティングが行われていた情勢から、データドリブンなファンマーケティングが発生してきた時代とも言える。
では、なぜ従来通りの管理手法ではリピート購買を管理できないのか。それは、① 広告在庫の上限、② ファンと新規客のCVRの違いを、式(A)では表現できないからである。
①は単純に「日本人は1億人しかいないため無限に広告できない」というだけの話だ。どうしても「すでに買った人」や「もう何度も広告を見た人」に広告は表示される。このため、闇雲に広告imp数を増やしても売上は増えず経営管理指標として適切ではないということになってしまう。
②は新規客よりもファンの方が明確にCVRが高い時、同じ広告を全体出しても効率が悪いのだが、それを式(A)が管理できないという問題だ。明らかに売上貢献度の高い消費者に対しては専用の広告やキャンペーンDMを高い費用を出してでも届けるべきであり、この設計にLTVは必須になってくるのだ。
LTVの計算方法
LTVの基本的な計算式は単純である。消費者1名を前提とした場合、その消費者が消費した金額を合計するのみである。
<n=1の場合>
1ヶ月目売上 + 2ヶ月目売上 + 3ヶ月目売上 ・・・+ 解約時の売上
しかし、実際のビジネスではお客様は1名ではないため、利用金額も解約までの期間も異なってくる。そのため、それぞれの平均値を適切に割り出して、統計データとしてLTVを計算する必要が出てくる。
<n=多数の場合>
1ヶ月平均目売上 + 2ヶ月目平均売上 + 3ヶ月目平均売上 ・・・+ 平均解約時の平均売上
ここでよく利用される手法が等比級数だろう。高校数学で習う概念だが、社会人になって使う場面も少ないので、今更言われてもどんな計算だったか忘れてしまったという方も多いのではないだろうか。式自体は簡単に記すと
Sn=a+ar+ar^2+ar^3+ …… +ar^(n-1)
Sn=a(1-r^n)/(1-r) ※ r=1ではない
Sn :総和
a :初項
r :公比
となる。数学が苦手な方は頭が痛くなるかもしれない数式だ。しかし、実際の値を入れてみると何となくだが実感が湧くのではないだろうか。
Sn :総和 → LTV
a :初項 → 平均客単価
r :公比 → 解約率
具体例としては、100名の集団をイメージすると分かりやすい。100名のLTVの合計値を計算する時、
Sn = 1ヶ月目平均売上 × 100 + 2ヶ月目平均売上 × (2ヶ月目に解約せず残っている人数) + 3ヶ月目平均売上売上 × (3ヶ月目に解約せず残っている人数) ・・・
であり、この100名全員が離脱するまで足し算を続けると、LTVを100倍した数値が導出される。このため、月単価1万円のサービスで解約率が毎月60%の場合には、LTVは16,667円である。なお、この際にずっと60%ずつ解約しても永遠にユーザーは0名にならないため「無限等比級数」という概念を用いた。
実際に検算してみよう。

計算が正しいことが分かる。実務で無限等比級数を使うのは面倒なので、そういった場合には適当に1000ヶ月目の数値を出すなどすれば、ほぼ正解に近い値を導出できるだろう。
コホートの設計を見失ってはいけない
上述の通り、正しい客単価と解約率さえ把握できていればLTVは割と簡単に計算することができる。特にサブスクビジネスであれば、客単価は一定であるし、顧客データを整理せずとも解約状況が把握できるので通常の商売よりも導出は非常に簡単と言えるだろう。
しかしながら、単に計算式を扱うだけではLTVの導出はできるが、正しい経営指標としての意味を果たさない。なぜならば、ユーザーはさまざまな「コホート」に別れており、コホート毎にLTVは異なってくるからだ。分かりやすい例で言えば、熱烈なファンとライトユーザーでは明らかにLTVが異なってくる。
コホートを正しく設定したい場合、有効なアプローチはいくつかあるが、まず取り組むべきはユーザーヒアリングやフィードバックの整理だろう。データドリブンな経営は重要だが、経営・企画者が肌感を持って消費者を感じるというのも重要である。まずは感覚で良いので、消費者を分類し、それぞれのコホートのLTVを計算して違いを見てみると良い。
また、他に有効なアプローチとしては「ランダムな組み替えによる有意差の導出」と「解約理由によるユーザーセグメント類推」が存在する。どちらも有効なアプローチではあるが、データ処理の専門性が一定求められるため、分からない方は専門家に意見を求めるのが良いだろう。

LTVの伸ばし方・使い方
さて、最後になるが読者が最も興味があるであろう、実務レイヤーでのLTVの使い方を紹介していこうと思う。他にもキャッシュフロー改善や借入調達のためのLTV活用方法も紹介したいが、これについてはまた別の記事にて取り扱いたい。
まず、第一に分かりやすいのが「LTVの特に高いセグメントを割り出し、集客を強化する」という方法だろう。前項で書いた通り、特定のコホートのみLTVが高いという状況は比較的発生しやすい。例えば、「地方都市在住の50代サラリーマンのLTVが他よりも130%高い」というデータがあれば、重要ターゲットとして広告出稿をするべきだろう。結果として、全体のLTVも向上することになる。
第二に挙げたい手法は、「解約率を下げる」というアプローチだ。当たり前だと言われるかもしれないが、LTVをコホート毎に管理することでどの集団のどんな課題にアプローチするのか優先度をつけることが大事だ。闇雲にサービス改善に取り組むのではなく、集団の大きさや解約理由のクリティカルさ、課題解決の難易度などを整理して、LTVを適切に上げるCS改善を行おう。
最後に、シンプルだが強力な手段として「値上げする」を取り上げたい。当たり前だが値上げすれば単月売上は向上する。しかしながら、大抵の場合には新規客の獲得が鈍ったり、解約率が上がって結局LTVが下がるというケースもある。しかしLTVを正しく管理している場合、値上げにより多少のユーザー離脱が進んでも、結局は全体売上が上がるかどうかを素早く察知することができる。正しい管理体制を敷いたら、一部ユーザーに値上げをするなどして、LTVが変動するかテストするのが良いだろう。
今回は少し長文かつ数学っぽい内容になってしまった。あまり数学が好きではない読者には読みづらい文章だったかもしれない。もし、内容が理解できないなどあれば、お気軽に相談していただければと思う。最後までお読みいただきありがとうございました。